籐巻ぐい呑にまつわる話
籐巻の「とう」は、「竹冠」の籐である。ラタンですね。
今はあまりなじみがなくなったせいか、「ふじまき」と読まれる方もいるし、
「とうまき」と読んでも「藤巻」と、うっかり「草冠」で表記してしまう方もいます。
熱帯に多いツル植物で、竹に見た目が似ています。性質は、曲げやすくて強く丈夫な素材です。
多くは椅子や籠などに使われていますよね。ベッドなどもあり、通気性もよく夏向きな感じがします。
錫製品においては、中にそそぐ飲み物の温度を和らげる役割やすべり止め手触りということもあります。
つまり、ぐい呑などは夏は見た目が涼しげに、冬は熱燗の熱の伝わりを和らげるということであったり、
首のくびれた背の高い徳利などは、その首の部分に巻いてすべり止めになるという具合です。
錫に籐を巻く場合、まず下地に紙を貼り付けます。使うのは障子紙とヤマト糊。
籐のすべり止めに使いますが、いい加減には貼れません。
しわがよると、上から籐を巻いたときに籐の表面にしわの段差がわかってしますのです。
ぐい呑に巻く籐は、挽き籐屋さんから仕入れたものですが、ほぼ均一に幅5.5厘(約1.8mm)に
揃えられています。厚みは1mmもないでしょうねえ。紙のしわはてきめんです。
ところでこの紙が厄介です。
ほんの20年ぐらい前までは、若干の円錐状に上の方の径より下の方の径が小さくなっているところでも、
長方形に切った紙がヤマト糊の水分で適度に伸びたため、しわを寄せずに貼れたものでした。
最近は丈夫になっているのか、紙が伸びません。
扇形に紙を切ればよいのでしょうが、無駄のないようにしかも数を揃えるには少し面倒です。
切り込みを入れたうえ強めに引っ張るなどの工夫をしています。
仕入れた籐は、うちへ分けてもらえる最上のものを使っています。
かなり良い部分を選り分けていただいていますが、自然素材です。
節もあれば、色の白っぽいところにところどころ赤っぽいところがランダムに混じっています。
白っぽいところだけ使えればよいのですが、籐屋さん曰く「今は採りすぎて良い素材が少なくなった」そうです。
うちで選り分けるにも限界があります。
籐は束で入りますが、1本ずつ仕分けると、長くてふた尋(ひろ)半位から、ひと尋半位まででしょうか。
ひと尋というのは正確にはわかりませんが、ざっと両手を広げた長さです。
勝手に自分を基準に判断してますが、自分の身長が178cm、両手を左右に広げた幅は
身長と同じぐらいといわれています。でも自分の場合手が人より長くできてしまっているので、
おそらく6尺をゆうに超えているでしょう。
そして例えば、ぐい呑の場合に使う籐の長さは、あくまで自分サイズ基準ですが、ひと尋と7、8寸位。
うまい具合に端っこに赤みがあれば、そこを避けても1本の籐で1個か2個分は取れる勘定です。
しかし、自然というものはそううまくいきません。思い通りにいくことが少ないといっていい。
何が起こるかわからない思い通りにいかないのが自然ですから、日本人は本来そのことをよくわきまえていた。
「赤いところを避けて巻けばいいじゃない」とのお叱りをいただいた日にゃガッカリしてしまいます。
でもなるたけそうなるようにしてはいるんですがねえ。
やれやれ、愚痴っぽくなってきたし、話も長くなってきた。
ところで、きょうご注文のぐい呑に籐を巻いていて気付いたんですが。
写真のクジラの小刀、これは自分の使いやすいように研ぎ直しはしましたが、
この形が私の手にはぴったりきて使いやすいですね。他に尾の部分が逆に反ったのもあったように思います。
それと、はさみ。小型ですが、刃の元から先まですこぶるよく切れます。
この2点、購入するときは具体的な使い道は考えておらず、なんか惹かれるなあどこかに使えるだろうと
都内某所で衝動買いしたものです。
で、今日は籐を巻くためにこの道具を使っている。都内某所からの注文です。
はは・・、まったく些細なことなんですが、
道具の購入先もぐい呑の発注先も、そういえば表参道のRinさんだったんです。
つまり、Rinさんからの注文品をRinさんから買った道具で仕上げさせてもらってるってことなんですが・・・
・・・とまあ、自分ひとりささやかに面白がっていたわけです。
最後に、籐巻の取り扱いです。
使い込んでいただくと色も経年変化を楽しんでいただけると思います。
水に濡れるぐらいでは何ともありませんが、例えば洗い桶の水の中に長時間浸けておくのは避けてください。
乾燥した籐が水分を吸収して伸び、ゆるみほつれの原因になります。
ただそうした場合でも、あるいは自然のものなので切れる場合もあります。
巻き直しはできますのでご相談ください。
- info-plus
- 2012.06.25 Monday